ドゥルーデのパラドックス

 大学の化学系の講義で知った話で、実際には電子の平均衝突時間の問題でしたが、明らかにわかりにくいと思われるので、アレンジして出題します。

目次

  1. 問題
  2. 応用
  3. 解答

問題

設定

基本事項

 ジャンケンを繰り返し行うことを考える。この手の問題の常識として、どの手を出す確率も1/3ずつとする。また、引き分けも1回に含めてカウントする。まずは、ジャンケンに勝つ確率を考えよう。どの手を出す確率も1/3だから、どの手を出しても1/3の確率で勝つ。したがって、勝率は1/3となる。(引き分けも1回としていることに注意!)

下準備

 まず、N回のジャンケンをして、その結果を書き並べ、記号列 A_n を作る。(例えば、勝利を○、引き分けを△、敗北を×で書き並べる。)次に、記号列 A_n の記号と記号との間に番号を割り振り、非負整数列 B_n と対応させる。例えば、B_0 は、次に第1回目のジャンケンの結果が記される“先頭”であり、 B_k で記号列 A_n を切断すると、その前には第 k 回目までのジャンケンの結果が記されることになり、さらに、その次からは第 k+1 回目以降のジャンケンの結果が並ぶというわけである。

《列》 B_0 A_1 B_1 A_2 B_2 A_3 B_3 A_4 B_4 ……
《例》 ジャンケンの結果が、○/×/△/× だったなら、A_1=○ A_2=× A_3=△ A_4=× となり、B_2 から見ると、次が「△」、前が「×」ということになる。

勝利の平均間隔

問題

 ジャンケンにおいて勝利と勝利との平均間隔を求めてみよう。

次の勝利までの期待回数

 下準備のように記号列を取ったとき、k → ∞、N-k → ∞を考えて(つまり 0 ≪ k ≪ N なる条件が成立する中で)、k を無作為に抽出し、B_k 以後の A_n に最初の○が現れるまでの期待回数を考える。(これは、ある瞬間から見た次の勝利までの期待回数を意味する。)
 この期待回数を E_a とすれば、どの記号も同様に確からしく現れるので、
  E_a =1*(1/3)+2*(2/3)*(1/3)+3*(2/3)*(2/3)*(1/3) ......
となり、E_a = 3 となることがわかる。

前の勝利までの平均回数

 次に、 B_k 以前の A_n に最初の○が現れるまでの期待回数 E_b を考える。すると、 E_a と同様にして、E_b = 3 となることがわかる。

E_a + E_b

 これらは、任意の瞬間に、次に勝利するまでのジャンケンの期待回数が3回であり、かつ、前に勝利したときまでのジャンケンの平均回数が3回であったことを示す。

《列》 ○??_↓_??○

 したがって2+2=4より、ジャンケンのある勝利から次の勝利までの平均間隔は4回である。

パラドックス

 上記の平均間隔を考えれば、△または×を?で表すと、n → ∞ のとき A_n を適当に並べ替えることで、
  ○????○????○????○????…… とできることになる。
 すると、○の出現頻度は1/5であり、勝利確率=1/5になってしまう。これはなぜか?

応用

 以上のパラドックスは、生起確率1/p の事象に応用できます。この事象の生起間隔が2p−2 になってしまう、とするわけですね。例えば、サイコロで特定の目が出る事象、コインの表裏の間隔……などなど、別に他のものを取り上げることもできます。
 そして、このような離散現象ではなく、連続現象について問題にした例が『電子の平均衝突間隔』であり、ドゥルーデのパラドックスの現題だったわけですね。

解答

別のアプローチで考えてみると

 平均間隔4回というのは直観とは異なる。3回に1回勝つのだから、恐らく2回が平均間隔になるだろう、これが普通の予想である。実際、問題編の最後で述べたように、勝率1/3の結果を「均す」ことを考えると、平均間隔は2回になる。
 あるいは、もっと厳密に考えてもよい。任意の瞬間から、次に勝利するまでの回数を、次の次に勝利するまでの回数から引いた数を考えるのである。詳細は省くが、これからも平均間隔が2回であることが導かれるだろう。
 このように、別のアプローチから考察してみると、どうやら4回ではないらしい、とわかる。では、どこで間違えてしまったのだろうか?

パラドックスの発生原因

分布図を用いて復習してみると……

 まずは、正の時間軸(これからのジャンケン)の結果を並べる図を書いてみる。

  《図》↓_??○??○??○??○?……

 次に、反転させた時間軸(これまでのジャンケン)の結果も、同じような図で分布する。

  《図》……?○??○??○??○??_↓

 この時間軸を接合し“端”同士をくっつけると下図のように“間隔”が4回の部分が形成されるように見える。

  《図》……?○??○??○??○??_↓_??○??○??○??○?……

間隔の数え方

 上記のように、問題編では「任意の瞬間」から次の勝利まで、同じく「任意の瞬間」から前の勝利まで、を考えた。そしてその合計を考えたのである。勝利の平均間隔を求める方法として、この単純に和をとる考え方は適当なのだろうか? 実はそうではない。ここに誤りがある。

 今回は、勝利の平均間隔を考えている。ここでいう間隔とは、ある勝利と別の勝利とに挟まれたところである。ということは、勝利が2回以上あって、はじめて間隔を数えることができる。したがって、特にジャンケンをはじめたとき、勝利は当然0回だから、1回目の勝利が発生しても、間隔を数えることはできないというになる。
 そして、前述した「任意の瞬間」とは、このスタート地点と等価なのだ。勝利が存在していない状況で、1回目の勝利までの回数をカウントしている。だから、まだ「間隔」を数えることができない。そこで、今度は過去に遡ることで(仮想的な)2回目の勝利を考えてしまった。(こうして「間隔」を公正に数えているかのような錯覚が生じてしまう。)

 つまり、パラドックスの原因は、勝利回数0回から間隔を数えはじめたことにある。そのため、間隔を数えることのできない、はじめの1回分だけ回数が多くなってしまったのである。
 本来ならば、まず勝利のところを探して、そこを起点として数えはじめなければならないのだ。(ちなみに、こう考えると、試行開始地点および試行終了地点のような“端っこ”の部分はカウントから除外されることになる。なお、このような部分は、試行回数が大きくなると、無視できるほどに小さくなる。)

著作・制作/永施 誠
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