Stardust Crown
Stardust Crown で迷路を作成するときに用いているアルゴリズムを紹介します。セルを状態ごとの領域に分割し、順次拡張していく手法ですから“領域拡張法”とでも呼びましょうか。(本当は“SdC迷路生成アルゴリズム”と名付けようかと思ったのですが、先人たちで既に同様な手法を考えた人がいそうなので、ちょっと控えめにしておきますね。)
2次元に敷き詰められた長方形セルを迷路にします。
ここで、セルは縦横で隣接しているものとし、互いを壁が隔てていなければ移動可能です。境界条件(右端と左端、上端と下端が繋がっているかどうか)はどちらでも構いません。はじめ、すべてのセル間が壁で隔てられているものとし、それから“壁を壊す”ことで迷路を造ります。最終的に「任意のセルと任意のセルの最短移動経路がただ一通り存在する」ような迷路が出来上がります。
なお、ここでは平面長方形の迷路として説明しますが、実は“孤立している”ノードがなければ、どんな無向グラフにも適用可能(なはず)です。すなわち、長方形でない形状であったり、3次元であったりしても迷路にできます。(隣接の条件は適当に変更しなければなりませんし、よほど複雑な場合は可視化にも工夫が必要になりますが。)
定数の数値は適当なもので構いません。また、ある要素数の集合からランダムに1つ取り出す関数を用いるので、乱数の生成が必要です。
なお、プログラムを高速化するためには cell を状態ごとに分けた方がよいのかもしれませんが( cell_border, cell_out )、説明の都合上まとめて記述しています。
※わかりにくいときは実演も参照するとよいでしょう。
必要なら(そしてたいてい必要でしょうが)できた迷路を可視化したり、その中をキャラクターが動き回るための処理等も用意しておかなければなりません。
以下、 wall の要素を“壁”、 cell の要素を“セル”と呼ぶことにします。
なお、スタート地点は必ずしもランダムに選ばなくて構いません。真ん中とか左上とか、適当な箇所で大丈夫です。
LABYRINTH_IN の近傍のみを LABYRINTH_BORDER にしていきますので、2番目の“N の探索”は必ず成功します。
さらに、3番目で迷路を拡張していますが、N から出発して、既に LABYRINTH_IN であるセルに到達するためには、必ず X を経由しなければならず、しかも X を経由すれば到達可能ですから、任意の段階の(LABYRINTH_IN であるセルの集合としての)迷路は“任意のセルと任意のセルの最短移動経路がただ一通り存在する”ようになります。
※厳密には数学的帰納法によって証明することになります。
LABYRINTH_BORDER であるセルがなくなっていれば、LABYRINTH_OUT であるセルもなくなっています。(すなわち、完成後は wall の全要素が LABYRINTH_IN になっているはずです。)
さらに、終了後に壁をいくつかランダムに選び、“壊す”などしてもよいでしょう。適度に空いている迷路を作ることができます。
参考のため、Java 言語によるソースコード(の一部)を例示しておきます。
// Programmed by M.Nagase @ Stardust Crown "http://stardustcrown.com/"
// 2次元の例です
int size;
int size_x; // セルの列数です
int size_y; // セルの行数です
int max_direction = 4; // 2次元なので上下左右の4方向です
// wall[Position_X][Position_Y][Direction] に壁の有無を格納します
// メモリーが多少無駄になりますが有向グラフと同じ記憶容量になっています
int[][][] wall;
public static final int WALL_NO = 1;
public static final int WALL_YES = 0;
// ※ cell と同じように一次元配列に変換して処理すると汎用的にできます
// cell[Position_X + Position_Y * size_x] にセルの状態を格納します
int[] cell;
private static final int LABYRINTH_IN = 2;
private static final int LABYRINTH_BORDER = 1;
private static final int LABYRINTH_OUT = 0;
// 効率を上げるため LABYRINTH_BORDER であるセルの数を覚えておきます
int num_of_LABYRINTH_BORDER;
private static final int NO_CELL = -1;
public void createMazeMap(int x, int y) {
// 2次元のサイズを与えて迷路を作成します
size_x = x;
size_y = y;
size = size_x * size_y;
wall = new int[size_x][size_y][max_direction];
//[1]初期化
// Java ではゼロクリアされているような気もしますが初期化しておきます
for (int i=0; i < size_x; i++) {
for (int j=0; j < size_y; j++) {
for (int k=0; k < max_direction; k++) {
wall[i][j][k] = WALL_YES;
}
}
}
cell = new int[size];
for (int j=0; j < size; j++) {
cell[j] = LABYRINTH_OUT;
}
//num_of_LABYRINTH_BORDER = 0;
//[2]スタート地点の選択
int X_0;
// 1番目の処理
X_0 = (int)((size) * Math.random());
cell[X_0] = LABYRINTH_IN;
// 2番目の処理
num_of_LABYRINTH_BORDER = pickupNeighbor(X_0);
int X, N, X_x, X_y, N_x, N_y, direction;
while (num_of_LABYRINTH_BORDER > 0) { // [4]終了判定
//[3]迷路拡張
// 1番目の処理
X = pickupNextCell();
// 2番目の処理
direction = selectNextConnect(X);
N = neighborCell(X, direction);
// 3番目の処理
// 1次元データとして処理しているので2次元に戻します
X_x = X % size_x; X_y = X / size_x;
N_x = N % size_x; N_y = N / size_x;
// 壁を取り除きます
wall[X_x][X_y][direction] = WALL_NO;
// 有向グラフとしているので逆側からも壁を取り除きます
wall[N_x][N_y][(max_direction-1) - direction] = WALL_NO;
/*
(max_direction-1) - direction と direction が、
逆方向に定義されているものとします
neighborCell() の実装も参照してください
*/
// 4番目の処理
cell[X] = LABYRINTH_IN;
num_of_LABYRINTH_BORDER--; // 状態 LABYRINTH_BORDER が1つ減ることになります
// 5番目の処理
num_of_LABYRINTH_BORDER += pickupNeighbor(X);
}
}
private int pickupNeighbor(int x) {
int c = 0;
int n;
for (int i=0; i < max_direction; i++) {
n = neighborCell(x, i);
if (n != NO_CELL && cell[n] == LABYRINTH_OUT) {
cell[n] = LABYRINTH_BORDER; // セルの状態を書き換えます
c++;
}
}
return c; // 近接するセルの数を返します
}
private int pickupNextCell() {
int c = (int)(num_of_LABYRINTH_BORDER * Math.random()) + 1;
int x = -1;
// LABYRINTH_BORDER である c 番目の セルを返します
do {
x = (x + 1) % size;
if (cell[x] == LABYRINTH_BORDER) {
c--;
}
} while (c > 0);
return x;
}
private static final int NOTYET = 0;
private static final int DONE = 1;
private int selectNextConnect(int x) {
int[] d = new int[max_direction];
for (int i=0; i < max_direction; i++) {
d[i] = NOTYET; // 検索した方向を記憶しておきます
}
int c = max_direction;
int n, h, s;
for (int i = max_direction; i > 0; i--) {
s = -1;
h = (int)(i * Math.random()) + 1;
do { // 方向をランダムに選びます
s = (s + 1) % max_direction;
if (d[s] == NOTYET) {
h--;
}
} while (h > 0);
d[s] = DONE;
h = neighborCell(x, s);
if (h != NO_CELL && cell[h] == LABYRINTH_IN) {
return s; // 検索した方向が迷路の一部であればその方向を返します
}
}
// 実際には次の処理に制御が移ることはないはずです
return NO_CELL;
}
// この関数は2次元専用になりますので拡張時は修正する必要があります
private int neighborCell(int position, int direction) {
// 境界が崖であるという条件で方向に応じた隣のセルを返します
switch (direction) {
// 方向は対になる向きの和が max_direction になるように定義します
case 0: // 右
if (position % size_x < size_x-1) return position + 1;
break;
case 1: // 上
if (position / size_x > 0) return position - size_x;
break;
case 3: // 左
if (position % size_x > 0) return position - 1;
break;
case 2: // 下
if (position / size_x < size_y-1) return position + size_x;
break;
}
// 隣のセルが存在しません
return NO_CELL;
}
※実際の表示には、クラス化して他のクラスから呼び出したり、適切に main 関数を追加したりする等の修正が必要です。
『迷路の国のマウンス』(のはじめのアニメーション)で迷路生成の様子を確認することができます。 "LABYRINTH_OUT" を黒、 "LABYRINTH_BORDER" を灰色、 "LABYRINTH_IN" を白で示しています。
著作・制作/永施 誠