囚人のパズル

目次

  1. 囚人のパズル
  2. 解答編

囚人のパズル

 「サーベロニの問題」として古くから知られています。よくパラドックスであると言われますが(「3囚人のパラドックス」という呼び方もある?)、実のところ正解がはっきりと定まるので“確率のパズル”に分類できるでしょう。
 「ダイヤとティッシュ」、「モンティ・ホール問題(ジレンマ)」(クイズ番組で賞金の入った箱を選ぶ、などといった変形)等の呼び方もあるみたいですね。著名な数学者も混乱させたことがあるそうで、確率問題における「同様に確からしい」という概念の大切さを改めて認識できます。(これを正しく把握できていないと、容易に混乱させられてしまうのです。)

死刑囚の天啓

 刑務所Xには、三人の死刑囚A・B・Cがいます。これまでの法務大臣は死刑制度に反対でしたが、新任の法相はそうでもないらしく、死刑執行の何枚かの書類に署名・捺印してしまったそうなのです。刑務所Xにもその話が伝わりましたが、死刑囚Aが知ることができたのは「三人の死刑囚のうち、二人が死刑になる」という事実だけでした。
 死刑囚Aは焦りました。このままでは2/3の確率で殺されてしまいます! とはいえ、再審請求も却下されたので、もうどうすることもできないのでしょうか……。
 突然、死刑囚Aは天啓を得たように思いました。
「そうだ! 自分が死刑に処される確率を何とか減らす方法がある。」

 死刑囚Aは、誰と誰が死刑になるのかを知っている看守を呼び、話しかけました。
「看守さん、旦那が死刑囚にそいつ自身の情報を与えてはいけないことは知っている。だが、BとCならいいだろう? 同じムショに押し込められた身の上、あいつらと俺とは浅からぬ縁があるのだから……。
 ところで、俺はもう、三人のうち二人が死刑になることは知ってしまった。ということは、だ。BとCの片方と俺か、あるいはBとCの両方が殺されるわけだ。
 すると、俺が死刑になろうがなるまいが、BとCのうち、少なくとも一人は死刑に処されるわけだ。そこでBとCのうち、死刑になる奴の名前を一人だけ教えてくれ。俺が勝手に一人の名前を念じるのと同じだから、旦那も規則を破ったことにはならないだろう?」
 看守はしばらく考えこみましたが、やがて死刑囚Aの言ったことをその通りだと認めました。そこで看守は答えたのです。
「いいだろう、教えてやる。少なくともBは死刑に処される。」
 そして看守は、誰にも言うなよ、と残して去っていきました。

 死刑囚Aは残された独房で飛び上がって喜びました。
「素晴らしい! 看守の話を聞く前は、俺(A)・B・Cの三人のうち、二人が死ななければならなかったのだから、俺は2/3の確率で死ぬところだった。だが、今やBの死刑が決まり、死ななければならないのは、俺(A)かCの二人に一人だ。つまり、俺の死刑が執行される確率は1/2に減ったのだ!」
 死刑囚Aは大いなる幸福感に浸ったのです。

問題

問一、

 さて、死刑囚Aの幸福感は本物でしょうか? それとも幻想でしょうか? もし本物だとしたら、看守は規則を破ってしまったのでしょうか? もし幻想だとしたら、AかCの片方が死ぬという状況の中で、Aが死ぬ確率だけ2/3と偏っているのでしょうか?

問二、

 では、状況を少し変えて、死刑囚Aが「Bは死刑になるのか?」と尋ねて、看守が「Bは死刑に処される」と答えたとしたらどうでしょう? 今度の死刑囚Aの幸福感は最初の状況と比べて違うものなのでしょうか?
 今度は、看守が「Bは死刑にならない」と答えていたかもしれないことを含め『問一』を併せてもう一度考えてください。

解答編

解答

  1. 問一、
    1. 死刑囚Aの幸福感は幻想です。
    2. Aが死ぬ確率だけ2/3で、Cが死ぬ確率は1/3です。
  2. 問二、
    1. 死刑囚Aの幸福感は本物です。
    2. Aが死ぬ確率は1/2です。問一の状況とは異なります。

解説

問一、

 何が「同様に確からしい」のか、しっかり考えなければなりません。つまり死刑囚の組み合わせは「1:AとB」「2:AとC」「3:BとC」のいずれかで、これは同様に確からしいです。
 さて、看守はBが死刑だと言いました。しかし今度は、ケース1とケース3が同様に確からしいと思ってはいけません! なぜなら、ケース1の場合、看守はBの名前を告げるしかありませんが、ケース3の場合は、Bの名前を告げるかCの名前を告げるか、この2つの選択が残されていたからです。

 今、「Bの名が告げられた」ことを出発点にしてしまっているので、どれとどれが同様に確からしいのかわかりにくくなっています。そこで、最初から整理してみましょう。
 突然ですが、対等な平行世界が6つ(ア・イ・ウ・エ・オ・カ)存在していると仮定してみます。(なぜ6つなのかは最後まで読めばわかるはずです。)ケース1〜3は同様に確からしいので、それぞれのケースを満たす世界が2つずつあると考えるのが妥当ですね。(よくある、可能性によって世界が枝分かれしていくという話を想像してください。分数ではわかりにくいのではじめの世界を1ではなく6にしたものです。)

 次に、看守が囚人Aの提案を聞いて、死刑囚の名前を一人伝える場面を想像してみましょう。ケース1の世界とケース2の世界なら迷うことはありません。Aでない方の名前を告げればよいのですから。ところが、ケース3の世界では少し迷います。BとCのどちらの名前を告げましょう? どっちにしろ大差はありませんから、ちょうど世界が2つありますし、1つ1つを割り当ててよいでしょう。

 さて、今、Bの名前を告げられたのですから、ウ・エ・カの世界は消滅してしまいましたね。そこで「Bの名前を告げる」世界を確認してみると、「ア・イ・オ」の3つになります。そのうち、Aが死刑になる世界はどれですか?

 ケース1の世界ですから「ア・イ」となります。つまり、3つある対等な(同様に確からしい)平行世界のうち、2つの世界でAは死刑なのです。
 ……Aが死刑になる確率は2/3ですね。

問二、

 『問一』と同じように、最初から整理してみましょう。
 同じく、対等な平行世界が6つ(ア・イ・ウ・エ・オ・カ)存在していると仮定してみます。(6つにしたのは『問一』と状況を揃えるためです。)世界を枝分かれさせましょう。

 次に、看守が囚人Aの問二の提案を聞いて、死刑囚Bが死刑か否かを伝える場面を想像してみましょう。今回は、どのケースの世界でも迷うことはありません。Bが死刑か否かをそのまま伝えればよいのですから。

 さて、今、Bの名前を告げられたのですから、ウ・エの世界が消滅しましたね。そこで「Bの名前を告げる」世界を確認してみると、「ア・イ・オ・カ」の4つになります。そのうち、Aが死刑になる世界はどれですか?

 ケース1の世界ですから「ア・イ」となります。つまり、4つある対等な(同様に確からしい)平行世界のうち、2つの世界でAは死刑なのです。
 ……Aが死刑になる確率は1/2ですね。

『問一』と『問二』の差

 『問一』と『問二』それぞれでどう状況が異なるのか、違う角度からもう一度振り返ってみます。看守が異なる返答をした場合を想像して、Aが答えを聞く前の立場から、Aが死刑になる確率を再計算してみましょう。

 問一で、もし『少なくともCは死刑になる』と答えるとしても、可能な世界は同じように3つで、そのうち2つの世界でAが死刑になります。BとCを入れ替えるだけですから当たり前ですね。またどちらの答えになるかは五分五分ですから、Aが死刑になる確率は
  1/2×2/3+1/2×2/3=2/3
です。これは何ら矛盾はないです。
 しかし、もしも看守の答えによってAが死刑になる確率が1/2に変化するとしたら
  1/2×1/2+1/2×1/2=1/2
で、もとのAの死刑確率と反する結果が導けてしまいますね。(いま、結果を聞く前に、計算をしていることに注意してください。)

 一方、問二で、もし『Bは死刑にならない』と答えるとしたら……可能な世界は「ウ・エ」の2つで、どちらの場合でもAは死刑です! ただし『Bが死刑になる』と答える確率は、Bが死刑になる確率と等しく2/3ですから、Aが死刑になる確率は
  2/3×1/2+1/3×1=2/3
です。やはり何の矛盾もありません。

 上記は、要するに世界の枝分かれの話を計算に直しただけなのですが、『問二』では『Bは死刑にならない』と答えられるかもしれないリスクを背負った(答えによってはAが死刑になることが確定してしまいます)分だけ幸福は本物だった、一方、『問一』ではどちらの答えでもAにリスクはないので(Aの死刑が確定することはない)幸福は幻想だった、と言えば納得できるでしょうか。

著作・制作/永施 誠
e-mail; webmaster@stardustcrown.com