Stardust Crown
初版:2001-05-26
振り放け見れば遥かなる時、西方南土に常夜の都あり。
天に雨盗まるる年、地に病降らする月昇れば、戻らぬ日は沈み行きけり。
花は枯れ、馬は倒れ、人は争ふ。
翁嫗は社に祈ることなく、若輩は苑に笑ふことなく、嬰児は家に泣くことなし。
母なる河は赤く濁りたり。
禍の主居り。
そは、山と疑ふ一つの身、空に交はる九つの首、星を嘲る百の瞳を纏ふ妖かしなり。
清らなりし肌を覆ふは黒き鱗、
愛しかりし口を裂くは紅の牙、
温もりありし心を染めるは灰の空虚、
約束の丘に眠り、裏切りの森を貪りて、憎悪の泉に潜むものあり。
災厄は国を滅ぼし、受難は百姓に涙させ、しかして悲哀は猛き者を呼ぶべし。
昔日の勇士、那を嘆きて世の憂ひを背負ふもの来り。
右手に握り締むる剣は破りし誓いの為、
左手に掲げ構へる盾は変はらぬ想ひの為、
一人愚かなる道を歩むは唇を託されたる乙女の為。
言葉こそ及ばぬことあれ。
男、魂を穿つ罪を振るひて遂に大蛇を倒しけり。
かかる街に朝をもたらしぬれど、如何なる因果かありけむ、
彼の誰かだに伝へ語りしもの絶えてなきなりとや。